2010年7月16日〜31日
7月16日 直人 〔わんごはん〕

 ヒロとマキシムの喧嘩はぼくにも原因があることなので、なんとかしなければなりません。

 ぼくはあることを思いついて、ロシア人の犬たちに近づいたのですが、なかなか大変です。
 彼らは、その、とてもフレンドリーで、自由なものですから。
 CFの規則なんかつっかえ棒にもならない。

 困った時のアルフォンソ、ということで、ぼくはアルに事情を話して、テーブルに同伴してもらいました。
 ところが、これでまた厄介なことが……。


7月17日 ティノ 〔犬・未出〕

 おれの家は恋愛自由です。
 おれのご主人様はいたっておおらかな方なので、おれたちがよその犬に恋をしても気にしません。むしろ、恋をしてウキウキしている若い連中が好きみたいです。

 おれは今、恋をしています。
 相手はフェンサーの世界チャンピオン、アルフォンソ・バッリスタ! 

 まなざし、身ごなし、声、何もかもがセクシーな男です。
 彼としゃべっているだけで、ふわふわと足元が浮いてしまいます。

 それなのに! 先日、この大事なひと時を謎の東洋人が奪い取っていったのです!


7月18日 ティノ 〔犬・未出〕

 おれとアルがしゃべっていた時、日本の犬がやってきて、彼に英語で話しました。
 おれは英語があまりよく話せないので、意味がわかりません。

 アルは「ちょっと失礼」と、彼と出て行きました。

 彼らはロシア人と話していましたが、アルはとても楽しそうでした。東洋の犬の肩を抱いたり、頬にキスしたり。

 おれの気持ちがどんなだったかわかりますか。
 この怒りのマグマで、もう一度ポンペイを灰に埋めてみせますよ


7月19日 キース 〔わんわんクエスト〕

 CFにいくと、時々妙な相談を持ち込まれます。

「お宅って、犬同士フリーなの?」

 たいがいうちの連中と寝たいという相談です。
 ロビンが一番多いのですが、ミハイルやエリックに橋渡ししてくれ、という話もよくあります。
 彼らには言いづらいらしくて、わたしに言ってくるんです。

 以前、バカ正直にエリックに話したら、そういう相談は二度と受けなくていいとのことでした。

 昨日はアルのことでした。
 その男の友人がアルに夢中で、恋に狂って刺しかねないから注意しろというのです。 ふう。


7月20日 ヒロ 〔クリスマスブルー〕

 今日もそうめんを作って、夏バテ・マキシムに食べさせた。
 彼は食べるが、元気がない。ロシア人だからやっぱりアフリカはキツイのかな。

 口数が少なく、話せば伯爵が夏のバケーションに来ない、という愚痴ばかり。
 彼の伯爵への思いはわかっているけど、おれはちょっとジェラシーなんだよね。

 みんな美人とセックスできていいよな、とうらやましがるけど、セックスできても超えられない壁はあるってことだ。せつないなあ!

 明日はやっぱり泳ぎにいこう!


7月21日 ヒロ 〔クリスマス・ブルー〕

 今日はえらいことがあった。

 直人が刺されそうになり、代わりにイタリアの犬が刺されたのだ。
 CFで有名なスケベのアルが。

 直人は最近、アルにボディガードを頼んでいた。
 ロシア人がしつこく迫ってくるのを避けるためだが、それがアルのファンの怒りを買ったらしい。

 しかし、アルは相手を責めないばかりか、仲間に言って、取り乱したファンをCFから連れ出させた。

 ポルタ・アルブスに行ってもスタッフには、自分で怪我したと言っているらしい。
 あのスケベは漢だ。


7月22日 マキシム 〔クリスマス・ブルー〕

 今日、ヒロがCFの帰りにおみやげを持ってきてくれた。

 ピロシキだ。
 店で買ったものではなくて、おれの故郷の味だった。

 ここしばらくなかった食欲が湧いて、夢中で食べてしまった。

「直人がロシア人に習って作ってくれたんだ。おまえと友だちになろうとしてさ。そのためにひどい目に遭ったんだぜ」

 ヒロの話を聞いて、おれはおどろいた。
 なんでピロシキ作るのにそんなに事件が起きるんだ?

 でも、ヒロと直人の気持ちはわかった。おれはひさしぶりに救われた。


7月23日 直人 〔わんごはん〕

 今日はポルタ・アルブスにアルを見舞いに行きました。
 彼は仲間とふざけていて、あいかわらず陽気でした。

 ぼくが恐縮していると、彼は

「キースから警告されていたんだ。刺されたのは、わたしの不覚。気にするな」

 怪我は浅いそうです。
 マキシムからピロシキの礼を言われたことを伝えると、アルも喜んでくれました。

「いいな! 今度、わたしにも紹介してよ。あの氷の美人!」

 本当に怪我は浅いようで、よかったです。


7月24日 ヒロ 〔クリスマス・ブルー〕

 ピロシキ以降、マキシムが元気になってよかった。

 それに最近とげとげしかったのもとれて、また蜜みたいにやさしくなった。
 伯爵の話をしなくなったのが、一番いいことだ。

 彼がまた可愛くなったからか、おれのほうのCFに出かけたい情熱も前より少なくなった。

 おれも嫉妬してたんだよな、結局。
 ふたりで風呂に入っている時なんか、無上に幸せに感じる。

 今度、直人に頼んでおれもピロシキの作り方を覚えよう。いや、ふたりで習おうかな。


7月25日 ティノ 〔犬・未出〕

 おれは今日、やっとポルタ・アルブスに見舞いに行きました。
 エリックが「ボディチェックさせてもらう」と言いましたが、アルは冗談だ、と笑ってくれました。

 おれは号泣してしまいました。
 彼はエリックを退室させ、おれをベッドのそばに呼んでくれました。

「つらい思いをさせたね。でも、わたしはご主人様のものだから」

 彼はキスしてくれました。一切を洗い流すようなロマンチックなキスでした。

 おれは家に帰って、また号泣しました。
 ご主人様が笑いながら、肩を抱いて慰めてくれました。


7月26日 直人 〔わんごはん〕

 昨日はご主人様がお帰りになりました。

 達者でやっていたか、とのん気に聞くので、ぼくはピロシキ事件のせいで、『魔性のスシ職人』というありがたくないあだ名を頂戴したのだと教えました。
 ご主人様は爆笑しました。

 ホントにもう! 元はといえば、料理作っても食べる人がいないから、CFで惣菜を配りはじめたんじゃないか。

 そう言うと、ご主人様は少しごにょごにょと言い訳して、「寂しかったのは、飯を食う客がいなかったからだけかい」と押し倒してきました。
 ホントにもう!


7月27日 劉小雲 〔犬・未出〕

 ご主人様が日本の浴衣を買ってくれました。
 ぼくがよろこんで着てみると、

「全然色っぽくない。乞食みたい」

 とひどい言われようです。

 ご主人様がみかねて着せてくれました。
 ひとに服を着せてもらうのはこそばゆいですね。ニヤニヤしながら、ご主人様の手際を見ていると、

「本当はきみがおれに着せるものなんだぞ!」

 と叱られました。でも、着崩れた時に「おいで」と直してもらったりするのは楽しいです。
 浴衣大好きです。


7月28日 セイレーン 〔わんごはん〕

 またまた日本に行ってきました。
 暑かった〜っ! 日本は湿気が多いのでアフリカより暑いです。

 でも、お義姉さんはすっかりよくなっていて安心しました。
 またのり巻きを作ってくれたんですよ。
 おいしかった! 

 日本では、ご主人様のお父さんお兄さんがゲイフォビアなので、ご主人様はぼくの後援者ということになっています。
 でもお義姉さんはなぜか知ってるみたい。

ご主人様は「この家では義姉さんだけが頼りだ」といいます。
ご主人様にとってお義姉さんは大事な人らしいです。


7月29日 ラインハルト 〔ラインハルト〕

 昨日はウォルフが飲んで帰ってきた。
 相手はイアン。ふたりは仲がいい。よくいっしょに飲んでる。

 イアンはウォルフの好きなタイプの人間だ。男らしくて誠実。それにどこか脆い感じ、男を引き寄せる隙がある。

 イアンもウォルフには心を開いている。だから、恩人だけどおれはイアンはちょっと不安なんだ。

そう言うと、ウォルフは吹きだした。ありえないって。

「ありえないことなんかあるか、あいつ色っぽいよ。おれはムラっと来たことある。押し倒したことも」

「なに?」

しまった。
ヤブヘビ。


7月30日 キース 〔わんわんクエスト〕

 エリックは最近、カニス・フォルムでSBSの隊員と知り合い、なにか張り合っているようです。
 エリックはガミガミうるさいですが、わりと友だちがすぐできます。

 ミハイルはファンがけっこういるみたいです。
 フィルはチェス仲間が出来たようです。

 一番友だちが多いのはアルフォンソ。
 一番少ないのはロビンです。

 ロビンはガードがかたいんです。よく声をかけられるんですが、家のもの以外には親しくしません。
 でも、仲良くなればとても友だちを大事にするやつです。


7月31日 アキラ 〔ラインハルト〕


 先日、食料品の買出しに出たら、ラインハルトがいた。
 肉の塊と山のようなポテトサラダのパックを買い込んでいた。おれが寄っていって

「きみでも、キッチンに立つのか」

と話しかけると、

「ウォルフが痩せてきた。栄養つけてやらないと」だと。

 あと三匹ぐらい犬をまわして、夕食作れないようにしたろかい。
 しかも、

「日本食って体にいいんだろ? 今度うち来て作ってくれよ」

 ウォルフのためにかよ! なんでおまえの男のためにおまんま作ってやんなきゃなんねんだよ! 
 OKしたけどよ。


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